帰りたかった家

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女の人は古い真鍮製のドアノブを回すと狭い玄関でサンダルを脱ぎ、バッグを投げ捨て、そのままフラフラしながら台所をつっきり、奥の和室にぽつんと置いてあるこたつに潜り込んだ。僕はぼんやり突っ立ったまま、あたりを眺めていた。  落ち着いた赤のこたつ布団の上にアイボリーの手編み風のこたつ掛け。その上に茶色の天板がおかれている。窓を半分以上潰して背の高い本棚が2つ。 「ねえ……スイッチ……早く」 歯の根も合わない様子で俺に指示を出す。部屋には石油ファンヒーターとこたつがある。俺は両方のスイッチを入れた。しかし。ファンヒーターは灯油切れだった。こんなに寒いのにどうするのか。 「お湯……沸かして……」 「は、はい」 台所へ行き、ぴかぴかに磨き上げられた流しの前に立つ。やかんに水を入れてガスを点けた。青い火がボッと回りながらついた。俺は台所を観察した。冷蔵庫の上に電子レンジ、その上にオーブントースター。3段のワゴンの上段にサランラップとアルミホイル。籠の中にインスタントコーヒー、クリープ、スティックシュガー、紅茶のティーバッグ、ココアが整然と並んでいる。2段めはカラ、3段目にビニール袋とゴミ袋。小さな白い食器棚に数枚の皿と椀と飯茶碗。全て見るのに1分もかからない、簡素な台所だった。六畳間を窺うと、女の人は身体をくの字にしてきつく目を閉じている。俺は台所から声をかけた。 「救急車呼ばなくて本当に平気ですか」     
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