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布団からはみ出している黒髪が動いて顔が見えなくなった。頷いたのだろう。
「薬、飲みますか」
黒髪が横に動いた。
「なんで?」
「……」
女の人はこたつに潜り込むようにさらに身体を小さく丸め、もう何も答えなかった。このまま死んでしまったらどうなるんだろう。救急車を呼ばなかったというのは罪に問われるのだろうか。わたし、金にならない刑事事件はやらないから。またアイツの声が聞こえた。しゅんしゅんとお湯が沸く。白い湯気がこんなにも温いということを初めて知った。
「あの。お湯沸きました。何を淹れたらいいですか」
「……お湯でいいわ。あなたも適当に好きなものを飲んで」
俺は流しに戻って湯呑みに水で少しうめた湯を、赤いマグカップにココアを作った。
「どうぞ」
彼女は半身を起こしてお湯を一口ゆっくりと啜った。それから湯呑みを両手で抱えるようにしている。
「ごめんね。驚かせちゃって」
「ほんとにびっくりしました。大丈夫ですか。顔色悪いですよ」
青というよりは黄色に近い。
「ここ数日何にも食べてなくて。灯油もなくなっちゃって。買い物に行こうと表に出た途端、目が回って……今にいたる。大失敗。ごめんなさいね。迷惑かけちゃって」
初めて女の人の顔を正面から見た。
「ずっと泣いてたんですか」
「なんでわかるの?」
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