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すると物陰から現れた男がある。常にこの格納庫(通称工場)で作業している作業服の男、槐だ。彼は軍人ではない、純粋な職人である。
「それじゃ頼みます、槐さん」
あいよと軽い返事をして、職人槐は煙草を投げ捨てた。
戸惑うひるねにお構いなしに、槐は特戦機と生体部品の接続作業を進めていく。
「センセイ?」
「大丈夫、大丈夫だよ」
それはまるで自分に云い聞かせているようであった。
「ひるねちゃん、前に車で走った港、憶えてるね?」
「うん」
「日輪でそこまで行くんだ」
日輪起動。
兵士が集まってくる。
格納庫入り口が開放され、中から資材搬入用のトラックが飛び出てきた。運転するのは眠、荷台には槐。
眠は脇目も振らず港を目指した。そこには特戦機の積める揚陸艦が停泊している。
日輪が後ろからついてくる。大きな機械だが、なんだか健気だ。
港が見えてきた。
もう少し、
もう少しでひるねを自由に、
トラックの上を影が追い越した。
眠の眼前に、薄い藍色の機体が降り立った。
月光。
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