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少年たちの気持ちも、たぶんおれはちゃんとわかっている。昔同じことをやっていた記憶があるのだ。あの頃のおれたちは夢中だった。サッカーボールを自在に操れるようになることと、発売されたばかりのゲームを攻略することは同じことだった。たぶん、あの少年たちも同じだろうと思う。ほとんど毎朝、仲間同士、報告会みたようなことをしているんだろう。おれはどこまで進めた、と。お前のレベルはいくつになった、と。このボスはどうやって倒すんだ、と。大盛り上がりに盛り上がるから、じゃあ、夕方公園な、と。公園のブランコとかシーソーとかそこら辺の石とか、あの頃のおれたちにはなんだって高級ソファより快適で、しばらく騒いで遊んだ後は、いつだって、夕焼け小焼けでまた明日、だった。今は夕陽が沈んでからが本番、なんて日の方が多いぐらいである。
大人になっちまって、失ったもの。無邪気で無責任な「ぜってー、やくそくな」。夜どんなにはやく布団に潜っても、怒られるまで夜更かししても、明日は必ずやってきて、そこには早くも次の明日が見えていた。
大人になったおれが、今、持っているもの。さっき駅の近くのスーパーで買ってきた夕飯の弁当と、僅かな小銭、それから昨日切れた電球の替え。ほのかに酔っぱらった気分をスッキリさせようと、顔でも洗うつもりが明かりがつかなくて、ちょっぴりガックリ来ていたおれを、彼女はきっと笑うだろう。
昨日、土曜日。招待された結婚式の会場で、花嫁はおれの目を覗き込んで微笑んだ。
「はやく、あんたもね」
とおい記憶に同じセリフがあった。よっつ年長のとなりの姉ちゃんは、血のつながりもないくせに、ずっと姉ちゃんの顔でしかこっちを見ない人だった。彼女は進学するときに「はやく、あんたもね」そう言った。初めて恋人ができたときも、さんざ惚気を聞かせたあとで、やっぱり同じことを言っていた。いつか健気な弟が、いい学校へ入って、かわいい彼女を連れてきて、立派に就職をして、すてきな奥さんをもらって…そう信じている声だった。
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