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「かわいそうに。ご愁傷様」
背中に投げられた、からかいのことば。渋面をつくって振り返ると、ニヤニヤ笑う顔がなんとも腹立たしかった。
「だってお前、あの姉ちゃんのこと好きだったんじゃねぇの」
「そんなハッキリしたんじゃねぇの」
「まー、まー。飲もうや、今夜は。語ろう、笑おう、忘れよう!」
豆腐と薬味とポン酢を取り出して、肘で冷蔵庫の戸を閉めながら、ケラケラ笑っている。おれは苦笑を連れて洗面へ行き、さっさと電球を替えながら、そっとピンクのランプシェードを撫でた。指に、うすくつもった埃がついた。
「そんじゃ、改めてカンパイ」
友とふたり、缶のままで口をつける。この瞬間だけは、いつも最高の気分だった。大人になったおれたちが得た、ひとつ素晴らしいものは酒だと思う。もちろん、苦い酒もあった。飲まなきゃやってられないと、いっぱしに叫んだこともある。大人になっちまったおれたちは、酒の味を覚えたかわりに喉にからむようなジュースの甘みを忘れたわけでは別にないし、冷凍庫には今でもアイスのストックがある。おとなはズルいな、と、つまみに手を伸ばした。
「あ。これさー、ショックだったよな」
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