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「まさかの愛称呼びとは畏れ入りました」
完敗だ。女の子に関しては、絶対こいつにはかなわない。間もなくキラキラと笑顔を振りまく女の子たちをパンして、カメラは向かいのステージへとうつっていった。一転して骨太なドラムの音から演奏が始まる。
「こっちのバンドのメンバーなら全員知ってる」
「お前こういう音楽好きだよな、昔っから」
おれたちは、子どものころから女の子の趣味は合わなくて、聴く音楽もちがっていた。大人になっちまって、あの頃みたいに漫画の貸し借りもできなくて、以前より離れたような気もしている。
「おれ最近すっかりこういうの聴いてないよ。もう若くないし。テンポ速いの苦手になってきたような気がする」
そんなことを言う大人にお前もなっちまったのか。
「はやく、あんたもね」
「はやく、お前もさ」
繰り返される呪文のように、姉ちゃんも先輩も父さんも母さんも、そう言ってくる。押し入れにそっとしまい込んで隠しているブーツを捨てなさい、と。酒と煙草はほどほどになさい。またロックバンドのライブに行ったの?ラーメン屋でばっかり食事してないで。アイドルなんてわからなくっていいから。コミック本もやめなさい。ぜんぶ将来のためのお金でしょう。
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