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冬来りなば
「兄ちゃん、起きや。俺バイト行くな」
(夢か……)
どうやら、こたつで元日の朝を迎えてしまったらしい。
玄関を開けて出て行く拓海を目で追いながら、大輔はまだこたつに横たわったままだ。
(おかん、ごめんな。こんな急にお別れが来るなら、独立せんかったらよかった)
大輔はのろのろとこたつから這い出ると、朝の冷たい空気にぶるっと身震いした。それから、居間の奥にある小さな仏壇の前まで行くと、神妙に正座した。
仏壇には、明るく笑う母の写真が飾られている。
去年の春、大輔が独立して3ヶ月ほど経った頃、突然の心臓発作で母は亡くなってしまった。
しばらくは、つらくてつらくて会社も休みがちだった。
しかしお盆に帰った時、父と弟が慣れない家事に奮闘しているのを見て、自分だけが泣いてばかりもいられないと思った。
この年末は今までの遅れを取り戻すべく、 がむしゃらに働いた。
自分が立派に社会人として生きていくこと、それが今まで自分を育ててくれた母への恩返しなんだ、改めて大輔はそう思う。
(なあ、大輔。冬来りなば春遠からじやで。3人で頑張ってな、お母さんはずっと見ています)
誰かの気配を感じ、大輔が振り返ると、こたつに母の姿が見えたような気がした。
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