大晦日

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大晦日

「あー、やっぱり家のこたつはええなぁ」 そう言いながら、こたつに滑り込むように入ってきたのは長男の大輔。 (そら、そうやろ) 私は大きくうなずく。 「あれ、兄ちゃんち、こたつなかったか?」 大輔の向かいで、こたつに入っている弟の拓海(たくみ)がそれに答える。 「あるけど小さいやつやし、布団もこんな(ぬく)うない」 「(ぬく)いん、買うたらええやん」 大輔は黙っていて返事しない。 (そういうこととちゃうねん、家族団欒(かぞくだんらん)(あたた)かさや、なあ大輔) 私は心の中で呟く。 1年前の12月、急に独り暮らしを始めると言って、大輔は家を出た。 その翌月のお正月は「まだひと月経ってへんし、部屋も片付いてないし」と言って、顔も見せてくれんかったなあ。 結局この1年、数えるほどしか実家に帰って来んかった。 けど、今日帰って来てくれて、お父さんも私も嬉しいお正月や。 「おとんは? もう寝たんか?」 「おとん、このごろ夜9時には布団入ってんで。寒いし、ガス代電気代節約や言うて」 笑いをこらえるように拓海が言う。 「愛想ないな。大晦日夜に俺帰る、言うてあったのに。ま、年寄りやからしゃあないけどな」 大輔も笑いを含んだ声でそう言いつつ、あ、そうそう、と鞄からポチ袋を出して拓海に渡した。 「ちょい早いけど、コレ」 「何これ。うっわ、お年玉? 初めてやん、ありがとう」 拓海は心底嬉しそうだ。 (良かった、兄弟仲良しで) 私の心中(なか)は温かいものでいっぱいだ。 
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