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第1話 出会い
無数の人の形をした黒い影が俺の周りを取り囲んだ。
その影の顔は俺を蔑むかのようにどれもひどく醜くケタケタと笑っている。
「お前、消えろよ」
やめて。
「お前さえいなければ・・・・」
やめてくれ。
「俺、こいつとかよ。外れくじを当てちまったよ」
やめてくれよ。
声はどんどん大きくなっていく。
俺は耐えきれずに耳を塞いで屈み込んだ。
誰か・・・誰かたすけて
その時、誰かが俺の名前を呼ぶ声がした。
「たく・・・卓・・・・」
俺の真上に一筋の光が差し込んだ。
あれは、なんだろう。
「卓ちゃん、卓ちゃん、起きなさいな。もう朝だよ」
嗄れた、だが、百合の花をイメージさせる優しい声が頭の中を響かせた。
「ん、婆ちゃん?」
俺は重い瞼をゆっくり上げる。
目の前には、天然パーマで白髪をしたいかにも優しそうな老婆の顔があった。
俺は眠い目を擦りながら
「分かったよ。婆ちゃん。分かったから向こうに行っといてよ。俺、後で行くから」
「はいはい。分かりましたよ。それじゃ、居間で待っていますからね」
お婆さんはニコニコしながら部屋から出て行った。
起きんの面倒だな。
そう思いつつも起きて居間の方へ向かう。
扉を開けると卵とベーコンの香ばしい匂いがする。
「スクランブルエッグだ~!」
俺は机の上に置いてあるベーコンとスクランブルエッグに飛びついてむしゃぶりついた。
「そんなに急いで食べへんでもええからね。今日、婆ちゃんは森に薬草を採りに行ってくるけど卓ちゃんは今日どうするんだい?」
卓は動かしている箸を止めてお婆さんの顔を見た。
「今日は、お婆ちゃんと森に行くよ」
おばあちゃんはふんふんと顔に皺を寄せて頷いた。
「そうかい、そうかい。それじゃ、お婆ちゃんは卓ちゃんが食べ終わるまで待っていようかね」
お婆さんは卓とは反対の席にどっこいしょと座って編み物をし始めた。
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