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ふう。やっと帰れた。
指冷たい。
職員用階段を上がって二階。
右に曲がると私の職場がある。ドアの横の窓からは同僚たちがデスクワークをしている姿が見える。
鞄を持ち直し、ドアの取っ手を握る。
私の指より取っ手のほうが暖かい。
「戻りましたあ。」
「あら、ちーちゃん遅かったねえ、またゴネられたの?」
師長はすでに帰り支度。
ここは外科、内科、救急センター、入院病棟、デイケアも備えた総合病院の中にある訪問看護ステーション。
「はい。大森のおばちゃん正月が来ても、孫にあめ玉一つやれないって泣いてすがるんで、帰るに帰れなくて」
「あそこはおばちゃんの年金や貯金、お嫁さん管理だったわね。」
包帯の在庫確認していたらんちゃんが天井を見上げながらつぶやく。
うんうん、と言いながらさっちゃんが机の上に湯気の立つマグカップを置いてくれる。
「うわ、あったかそう。」
「そこはおいしそう、じゃないの?」
目の前で日報つけてるたまちゃんがくすくす笑ってる。
「うん。」
認知症の状態によっては金銭管理難しいから、仕方がないんだけど。
カバンの中から今日の訪問記録を引っ張り出す。
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