十 笑顔で

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 退院の日。  私と紫苑は医師から思いがけない事実を告げられた。  お腹の子供は双子だった。  紫苑は涙目で医師から自宅に戻ってからの注意事項を聞いていた。 「朱音、影井の姉さんから頼まれた仕事って時間かかるのか?」  タクシーの中では無言だった紫苑が、家に帰るなり聞いた。 「あ……どうかな……。始めたらそうでもないけど……」  影井さんには電話で、仕事を引き受けることを伝えていた。双子だと聞いて、仕事を反対されるのかと思った。 「どうして……?」 「自分の家のデザインまでは……無理か?」 「は……?」  自分の家? 「家……建てよう!」 「ちょ――」 「どこに建てる? 俺、明日にでも不動産屋……いや、ネットでも探せるか!」  紫苑は私の荷物を持ったままリビングを出て行き、ノートパソコンを抱えて戻って来た。 「え……今探すの?」 「早い方がいいだろ」  パソコンの電源を入れると紫苑はまたリビングを出て、今度は毛布を持って戻って来た。 「朱音は横になってて」  半ば強引に私はソファに寝かされて、毛布にくるまれた。  とりあえず様子を見ていたけれど、パソコンに向き合った紫苑は三十分間私を見向きもしなかった。私はわざと大袈裟なため息をついて、起き上がった。  キッチンに行き冷蔵庫を覗き込む。中はほぼ空っぽで、明るかった。  私は少し考えてからソファに戻り、紫苑の背中を見ていた。  あの頃より……背中……大きいかな……。
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