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四年という時間の長さを実感した。
四年、しかも大学を卒業して社会人になってからの四年は、人を変えるのに十分な時間だ。
俺がそうであるように――。
「幕田が振られるとこ、初めて見たな!」
俺のせいで静まり返った空気を和ませようと、名達が茶化した。
皮肉なことに、先輩に告白した直後に俺の友達が言った台詞を、今度は同期が言った。
あの時、俺は何て言った……?
「俺……」
先輩が慌てた顔で俺を見た。
「人を見る目はあるん――」
「――言わないで!」
正面から先輩の両手が伸びてきて、俺の口を塞いだ。
「お願い……。言わない……で……」
先輩は肩を小さく震わせて、目をギュッと閉じた。
あ、先輩泣く……。
そう思ったら、あとは身体が勝手に動いた。
ジャケットから財布を出して一万円札をテーブルに置き、俺は立ち上がった。先輩の腕をグイッと引っ張って、掘りごたつから引き上げる。
「鞄、これ? コートは?」
先輩の足元の黒いバッグを持つ。先輩は俺の手を振りほどこうと腕に力を込めたが、無意味だった。
「ここでキスしてもいい?」と、俺は先輩の耳元で囁いた。
先輩の肩がビクッと硬直する。
「コート、これでいいの?」
俺は壁のフックに掛けられた黒いジャケットを指さす。先輩が小さく頷いて、俺はジャケットをフックから外した。
「俺ら帰るから、ごゆっくり」
俺は口をぽかんと開けた八人を残し、先輩の手を引いて店を出た。
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