1.再会

10/22
前へ
/194ページ
次へ
 いつもより性急にお持ち帰りしたとでも思ってくれたらいい。  外に出て重い扉を閉めると、店内の喧騒がぴしゃりとやんだ。 「先輩、駅どこ?」  俺は先輩の背後でジャケットを広げた。先輩は戸惑いながらも、袖を通す。  先輩って……こんなに小さかったか――? 「先輩、痩せたね……」  俺と付き合っていた時は、食べるのが大好きで、いつも美味しそうに笑って食べていた。太っていたわけではないけれど、柔らかい身体は抱き心地が良かった。  でも、今、目の前にいる先輩は、あの頃よりずっと細くて、小さく感じる。 「何か言って……? 先輩……」  顔を覗き込むと、先輩は真っ赤な顔をしてきつく唇を噛んでいた。  泣くのを我慢している顔。  俺はタクシーを停めると、先輩を押し込んだ。 「先輩、家どこ……? 言わないなら俺ん家連れてくけど」  先輩は諦めて住所を運転手に伝え、俺はその住所をしっかりと記憶した。  到着までの二十分、俺は先輩の手を握りしめて離さなかったし、先輩も嫌がる素振りを見せなかった。 「えーっと……、ここ?」  タクシーを降りた俺は、目を疑った。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4757人が本棚に入れています
本棚に追加