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いつもより性急にお持ち帰りしたとでも思ってくれたらいい。
外に出て重い扉を閉めると、店内の喧騒がぴしゃりとやんだ。
「先輩、駅どこ?」
俺は先輩の背後でジャケットを広げた。先輩は戸惑いながらも、袖を通す。
先輩って……こんなに小さかったか――?
「先輩、痩せたね……」
俺と付き合っていた時は、食べるのが大好きで、いつも美味しそうに笑って食べていた。太っていたわけではないけれど、柔らかい身体は抱き心地が良かった。
でも、今、目の前にいる先輩は、あの頃よりずっと細くて、小さく感じる。
「何か言って……? 先輩……」
顔を覗き込むと、先輩は真っ赤な顔をしてきつく唇を噛んでいた。
泣くのを我慢している顔。
俺はタクシーを停めると、先輩を押し込んだ。
「先輩、家どこ……? 言わないなら俺ん家連れてくけど」
先輩は諦めて住所を運転手に伝え、俺はその住所をしっかりと記憶した。
到着までの二十分、俺は先輩の手を握りしめて離さなかったし、先輩も嫌がる素振りを見せなかった。
「えーっと……、ここ?」
タクシーを降りた俺は、目を疑った。
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