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「やべぇ……」と言って、紫苑は手で口を覆った。
紫苑の顔は耳や首まで真っ赤で、四十度の熱があると言われても納得出来るほどだった。
あれ……?
前にも同じような――。
「すっげぇ嬉しい――!」
そう言った紫苑は、笑っていた。
目を細めて、口角を上げて、頬を膨らませて。
笑った――。
四年半ぶりに見る紫苑の笑顔。
そうだ……。
あの時と……同じだ――。
初対面の飲み会で告白された一週間後、紫苑は私に会いに来た。授業が長引いてバイトに遅刻しそうな私を車で送ってくれて、帰りも待っていてくれた。
『付き合って欲しい』
運転中は無言だった紫苑が、私のアパートに着いて言った。紫苑は、今にも泣きそうだった。
正直、その必死な姿に絆された。
『いいよ』
私の返事を聞いた紫苑は、今みたいに顔をくしゃくしゃにして笑った。
『すっげぇ嬉しい――!』
その笑顔を見て、思った。
この人の笑った顔、好きだな……。
「紫苑……」
私は彼の頬に手を伸ばした。指先から紫苑の熱が伝わり、私の身体も火照る。
「私、紫苑の笑った顔が好きよ」
「え――?」
無自覚だったのか、紫苑は不思議そうな顔で私を見た。
「ねぇ、笑って……?」
私は彼の唇にキスをした。
「笑顔でずっとそばにいて――」
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