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退院の日。
私と紫苑は医師から思いがけない事実を告げられた。
お腹の子供は双子。
紫苑は涙目で医師から自宅に戻ってからの注意事項を聞いていた。
「朱音、影井の姉さんから頼まれた仕事って時間かかるのか?」
タクシーの中では無言だった紫苑に、家に帰るなり聞かれた。
「あ……どうかな……。始めたらそうでもないけど……」
環さんには電話で、仕事を引き受けることを伝えていたけれど、双子だと聞いて、仕事を反対される可能性もあった。
「どうして……?」
「自分の家のデザインまでは……無理か?」
「は……?」
自分の家?
「家……建てよう!」
「ちょ――」
「――どこに建てる? 俺、明日にでも不動産屋……いや、ネットでも探せるか!」
紫苑は私の荷物を持ったままリビングを出て行き、ノートパソコンを抱えて戻って来た。
「え……今探すの?」
「早い方がいいだろ」
パソコンの電源を入れると紫苑はまたリビングを出て、今度は毛布を持って戻って来た。
「朱音は横になってて」
半ば強引に私はソファに寝かされて、毛布にくるまれた。
とりあえず様子を見ていたけれど、パソコンに向き合った紫苑は三十分間私を見向きもしなかった。私はわざと大袈裟なため息をついて、起き上がった。
キッチンに行き冷蔵庫を覗き込む。中はほぼ空っぽで、庫内が眩しいほど。
私は少し考えてからソファに戻り、紫苑の背中を見ていた。
あの頃より……背中……大きいかな……。
「紫苑」
私は背後から紫苑の首に腕を回した。
「え……?」
「パソコンと睨めっこして楽しい?」と言いながら、彼の耳たぶを咥えた。
紫苑は耳たぶが弱い。
「ちょ……」
ちょっと舌を動かしただけで、紫苑の身体がピクッと反応した。
「朱音」
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