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「ずっと特定の女作らなかったお前が惚れた女とか、気になるだろ」と、名達が声を抑えて言った。
「教えろよ」
自分の話をするのは好きじゃない。けれど、先輩に再会できて舞い上がっていたせいか、話してもいいかなと思った。
「大学時代の元カノなんだよ。就職で仕方なく別れたけど」
「元カノ?」
「ずっと好きだったのか?」
「そ」
「でも、お前――」
店員が蕎麦を運んできた。名達は肉蕎麦、影井はざる蕎麦と豚丼のセット、俺は天ぷら蕎麦。
「お前、散々女と遊んでただろ」
店員がテーブルを離れると、名達が言った。影井はまず丼を手に持った。
「俺から誘ったことはねーよ」
「いや、それにしたって……」
「彼女、知ってんの?」と、影井が口をもごもごさせながら聞く。
「……知ってた……」と言って、俺は蕎麦を啜る。
「知っててよりを戻すのか?」
「そういうんじゃない…………。まだ……」
「まだ?」と、二人がまたハモった。
「返事待ち」
「お前が?」と、三度、二人がハモる。
「蕎麦、のびるぞ」
言わなきゃよかった……。
これまでの自分の行いの悪さを二人に指摘されて、一気に気持ちが沈んだ。
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