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先輩は俺の噂を聞いて、どう思ったろう。
やっぱり、軽蔑されただろうか……。
「幕田……。……幕田!」
影井に名前を呼ばれて、ハッとした。ボーッとしているうちに、蕎麦を食べ終えていた。
「携帯、鳴ってるぞ?」
「あ……」
俺はジャケットの胸ポケットで震えるスマホを取り出した。着信相手の表示に、心臓が大きく跳ねた。
先輩!
「もしもし!」
思ったより大きな声が出たことに、自分でも驚いた。
『あの……紫苑? 私……』
「先輩? どうしたの?」
『うん、あのね……。金曜の合コンにいた会社の子が、名達さんに会いたいって……言ってて……』
久し振りに聞く電話越しの先輩の声が、やけに新鮮だった。付き合い始めの頃、初めて先輩と電話で話した時のことを思い出す。
「うん」
俺は名達を見た。名達が不思議そうに俺を見る。金曜、俺と先輩が店を出た後のことを、聞いていなかった。影井は電話の相手が俺の想い人だとわかって、にやけ顔で俺を見ていた。
『結城杏菜さんていうんだけど、もし……名達さんが良ければ、会ってあげて欲しくて……』
「聞いてみるから、ちょっと待って?」と言って、俺はスマホのマイク部分を手で押さえた。
「名達、合コンに来てた結城杏菜って子がお前に会いたいって」
「結城杏菜?」
覚えていないのか、名達はちょっと考えた。その間に、俺も考えた。
「お前、合コンでいい感じになった子いたか?」
「いや?」
名達の返事を聞いて、俺はスマホを耳に当てた。
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