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「幕田!」
同期の名達が朝から上機嫌で駆け寄ってくる。
俺は、彼ほどバイタリティに満ち溢れた人間を知らない。
とにかく、いつも元気でポジティブで、ガッツがある。
関係あるかはわからないが、寝起きで機嫌が悪いことも、酔って管をまくようなこともない。
見習いと思うが、絶対に無理だとも思う。
「おはよ」
「はよっ。お前、今夜暇か?」
「なんで?」
「合コン、影井が行けなくなって人数足りないんだよ」
名達はよく合コンをしていて、こうして人数が足りない時は俺を誘う。
こんなにいい奴なのに、もう三年は恋人募集中だというから驚きだ。
パッと見が真面目そうに見えるのは切れ長の目とノンフレームの眼鏡のせいで、喋ると印象が変わる。
「いいの?」
「俺、今日は一日中外回りだから、他に声かけてる時間ないんだよ」と言って、分厚い鞄を見せる。
「わかった」
「時間と場所はメッセする」
名達は慌ただしく出て行った。
女は好きだ。
どんなに先輩を想っていても、セックスはしたい。だから、合コンで声を掛けられたら、断らない。でも、一晩限り。
それを知っているから、名達もよっぽど人数が足りなくて困った時でなければ、俺を誘わない。誘うとしても、『ギリギリになっても人数が揃わなければ』と言う。
俺がその夜のセックスの為だけに女の誘いを受けることを、名達はよく思っていない。それを知っているから、俺も『どうしても人数が揃わなければ』行く。
だから、今日みたいに朝から行くことが決定していることは珍しい。
今日はいつもと違うことが多いな……。
俺は甘いだけのコーヒーを飲み干して、デスクに戻った。
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