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都合のいいことに、名達は結城さんと昨日から付き合い始め、明日の日曜も会う約束をしていた。
少しでいいから結城さんに会わせて欲しいと頼み込んで、時間と場所を決めた。
朱音を取り戻すために、形振り構っていられない。
「本当に……葉山さんの迷惑にはならないんですか?」
当然ながら、結城さんは俺に疑心の目を向けた。
「朱音にも結城さんにも迷惑はかけないし、朱音に何か聞かれたら俺にしつこく聞きだされたって言っていいから」
「結城さん、俺の顔を立てて頼むよ」と、名達も加勢してくれた。
「そうは言われても……。私も葉山さんのことはよく知らないんです。葉山さん、会社の誰とも親しくしてないし……」
「朱音は中途採用のはずだけど、結城さんが入社した時には、もう働き始めてた?」
「はい。私たちの三か月くらい前からのはずです。元はインテリアコーディネーターをしてたって……」
「朱音はハウスメーカーのインテリア部門に入社したんだ」
朱音は大学で建築・デザインを専攻していた。
「入社直後の研修の課題で行き詰っていた時に、アドバイスをいただいたんです。それから私が勝手に葉山さんを慕って……」
「転職の理由とか、聞いたことない?」
店員がホットコーヒーを二つとホットカフェオレを一つ、運んできた。
「向いてなかった、って言ってました」
就職出来て喜んでいた朱音の姿を思い出すと、二年もしないで挫折するとは考えにくかった。
「あ、でも! 噂はあったんです。もちろん、根拠はないんですけど……」
「噂?」
結城さんは言いにくそうに、カフェオレに息を吹きかけた。
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