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「やっぱいいわ、忘れて。モテない男のひがみだよな。それに、お前だってちゃんと相手を選んでるんだろうし」
「いや……」
俺は鯖の味噌煮をほぐす。
「影井の言ってることは正しいよ」
『紫苑は魚の食べ方がきれいだよねぇ』
魚を食べる度に、先輩は言った。
先輩はお世辞にも魚の食べ方がきれいではなくて、よく俺がほぐしてあげた。
「どうして俺なんかがいいんだろうな……」
「ん?」
「俺なんかより、影井や名達の方が絶対いい奴なのにさ」
影井がみそ汁をすする。
長い前髪がお椀の縁に触れる。
くせっ毛だから、短くするとセットしきれないらしく、だらしない印象にならないぎりぎりの長さをキープしている。
この髪のせいでチャラそうに見られることもあるらしいが、名達同様に喋ると、その穏やかな声色に温厚さがにじみ出る。
「そりゃ、女が好きなのはいい奴じゃなくて、いい男だからだろ」
「結局は見てくれか」
「見てくれと言えば、今日の合コンの相手はSHINA《シーナ》だぞ?」
SHINAはデザイン事務所で、社長が女性で、女性向け商品の広告や雑誌のデザインを手掛けているせいか、社員の七割が女性。三年ほど前からスポンサー契約をしているため、交流がある。女性社員の採用基準に容姿が含まれていると噂されているほど、美人揃いだ。
「相手が相手だ。今日は大人しくしておけよ?」
確かに、会社同士の付き合いを考えると、悪い噂は避けたい。
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