4.彼の傷

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 夕方、紫苑から少し残業になるとメッセージが入った。私は少し迷って『食事の支度をして部屋で待ってる』と返事をした。  私は定時で退社して、寄り道せずに帰りの電車に乗った。転職してから、初めてのことだった。  電車を降りて、スーパーで買い物をする。何を作ろうかと店内を三周もして、会計を済ませた頃には鼓動が耳鳴りのように頭の中心で聞こえていた。  落ち着いて……。  まだ、明るいし人通りもある。  大丈夫。  私はエコバッグを両手に持って、マンションに向かった。偶然にも小さな子供を連れた母親のグループが前を歩いていて、マンションまで一人にならずに済んだ。  エレベーターに乗った時には、バッグを持つ手が汗で湿っていた。  私は綺麗に手を洗ってから、ハンバーグを作り始めた。  彼と別れてから、ハンバーグを作るのは初めてかもしれない。  帰宅してから一時間半ほどして、紫苑から電話がかかってきた。 『今から電車乗るけど、何か買って行くものある?』  紫苑の背後では不特定多数の話し声や、駅のアナウンスが聞こえていた。 「ビールは買ってあるけど……紫苑が飲みたいものあったら買って来て?」 『わかったよ』  こんな他愛のない会話が、くすぐったくて嬉しかった。  私はフライパンを火にかけた。  部屋に肉の焼ける匂いが充満して、私のお腹の虫が騒ぎ出した時、インターホンが鳴った。 「おかえり」
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