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「わかったよ……。ところで、影井」
「ん?」
「デートの前に歯を磨けよ?」
「へ?」
俺が箸で生姜焼きを指さすと、影井が「あっ!」と声を上げた。
「早く言えよ!」
「お前のデートの予定なんて知らねーもん」
「今日は内勤だからと思って……。くっそ」
「そこのコンビニで歯ブラシ買ってけ」
「そうするわ」
影井はそう言って大口を開けて笑った。
影井、嬉しそうだな……。
俺も一度やったことがある。
先輩と待ち合わせの前に定食屋で生姜焼きを食べた。食べてから四時間は経っていたのに、キスの後で先輩に笑われた。
『紫苑、生姜焼きの味がする』
俺は素直に謝った。
そしたら、彼女は『生姜焼き、食べたくなっちゃった』と言って、また笑った。
「幕田、今笑ってる?」
「へ?」
「いや……。なんとなく、笑ってるように見えたから」
『幕田は笑わないんじゃないんだな』と影井に言われたことがある。
「ちょっと懐かしいこと思い出してた」
「そっか……」と言って最後の生姜焼きを頬張った影井は、やっぱり嬉しそうだった。
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