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私が彼のもとから逃げ出せたのは、オーナーのおかげでもある。
「私、本物のオネェ様に会うの初めてです!」
結城さんも同じ仕草でオーナーに言った。
「あら、素直で可愛い子ね」
オーナーは結城さんを気に入ったようで、他のお客には内緒だと、いただき物のチョコレートを出してくれた。きっと、オーナーのファンからのプレゼント。
私はダーティー・マザーを、結城さんはカクテルに詳しくないようだったから、私がカルーアミルクを注文した。
どちらもコーヒーベースで、チョコレートによく合う。
オーナーにお任せで料理を注文して、私と結城さんは乾杯した。
「あの……。朱音さんは幕田さんの元カノ……のこと……聞いたことありますか?」
結城さんが徐に話し始めた。
「元カノ?」
「はい……。昨日、巧の……名達さんの部屋で元カノの写真とか……プレゼントとか見つけちゃって……」
なるほど……。
「私……、元カレといい別れ方したことがなくて、いつも浮気されたり大喧嘩したりして別れてたから、別れたらすぐに元カレのものは捨てちゃうんです。だから……、元カノの思い出を大事に持ってる巧の気持ちが……わからなくて……」
「未練があるんじゃないかって……責めちゃった?」
結城さんは小さく頷いた。
「そっか……。名達さんは何て?」
「未練があるわけじゃないけど、嫌いになって別れたわけじゃないから捨てられなかった……って……」
「思い出……って怖いよね……?」
私は見るからに濃厚そうな色のチョコレートを一粒、口に入れた。苦みが口の中に広がる。
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