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紫苑が好きそうだな……。
「いい思い出が悪く変わることはないから……。名達さんにとってその元カノは、ずっと美しい思い出で……変わることはない」
結城さんは目に涙を浮かべて、頷く。
「例えば……この先結城さんと名達さんが別れることになったとして……、結城さんは名達さんに思い出を捨てて欲しい?」
「え……?」
「私は……捨てられなかったなぁ」
私はバッグから部屋の鍵を取り出した。
「これね……紫苑が初めて買ってくれたものなの……」
鍵についている、テニスボールほどの大きさのパンダのキーホルダーを軽く揺らして見せた。買ってもらった時は、白と黒の色がはっきりと鮮やかで、ふわふわしていて触り心地が良かった。今は色も褪せて、毛もくたくたになっている。
「聞いてるでしょう? 私が前の職場の上司と付き合っていたこと……」
結城さんが頷く。
「彼と付き合っている時も……これはずっと持ってたの。私の場合は完全に未練だったんだけど……。それでも、これは私が私であるための……命綱みたいなものだった……」
「命綱……?」
「そう……。思い出の象徴ともいえるかな。これがあったから、いつでも紫苑を思い出せたし、色々……頑張れたの……」
私は毛足の短くなったパンダを人差し指で撫でた。
「巧も……そうなのかな……」と、結城さんが寂しそうに呟く。
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