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「名達さんがその元カノの思い出を捨てたら、安心できる?」
「え……?」
「結城さんの為に捨ててくれたら、嬉しい?」
結城さんは、少し考えてから首を振った。
「優しいね……結城さんは」
「そんなこと……」
「私なら……紫苑が私以外の女の思い出を持ってたら、目の前で火をつけちゃう」
「え――」
結城さんが目を丸くして顔を上げた。
「冗談……ですよね?」
私は答えずにグラスを飲み干した。
「でもね……。どんなに大事に持っていても、やっぱり本物には敵わないんだよ」
「本物?」
「そう……。どんなに想っていても思い出は触れられないし、触れてもらえないから……。その寂しさは、他の誰かじゃ埋まらないの。それでも、一人はやっぱり寂しくて……誰かに触れたくなるし触れてほしくなる……」
掌に乗せたパンダが少し傾いて、困った顔に見えた。
「名達さんが元カノを忘れられなければ、結城さんが忘れさせればいいよ」
「え……?」
「思い出の元カノは一緒にご飯も食べないし、同じベッドで眠ることもないよ? それが出来るのは、結城さんだけだよ?」
「そう……ですね」
結城さんもグラスを空にした。
「朱音さんと幕田さんみたいになれるように、頑張ります!」
「私と……紫苑?」
「何か……強い絆があるっていうか。絶対の信頼があるっていうか……」
絆……か――。
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