4.彼の傷

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「名達さんがその元カノの思い出を捨てたら、安心できる?」 「え……?」 「結城さんの為に捨ててくれたら、嬉しい?」  結城さんは、少し考えてから首を振った。 「優しいね……結城さんは」 「そんなこと……」 「私なら……紫苑が私以外の女の思い出を持ってたら、目の前で火をつけちゃう」 「え――」  結城さんが目を丸くして顔を上げた。 「冗談……ですよね?」  私は答えずにグラスを飲み干した。 「でもね……。どんなに大事に持っていても、やっぱり本物には敵わないんだよ」 「本物?」 「そう……。どんなに想っていても思い出は触れられないし、触れてもらえないから……。その寂しさは、他の誰かじゃ埋まらないの。それでも、一人はやっぱり寂しくて……誰かに触れたくなるし触れてほしくなる……」  掌に乗せたパンダが少し傾いて、困った顔に見えた。 「名達さんが元カノを忘れられなければ、結城さんが忘れさせればいいよ」 「え……?」 「思い出の元カノは一緒にご飯も食べないし、同じベッドで眠ることもないよ? それが出来るのは、結城さんだけだよ?」 「そう……ですね」  結城さんもグラスを空にした。 「朱音さんと幕田さんみたいになれるように、頑張ります!」 「私と……紫苑?」 「何か……強い絆があるっていうか。絶対の信頼があるっていうか……」  絆……か――。
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