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影井さんは涙目で聞いた。別れたばかりで気持ちが弱っているのか、泣き上戸なのかはわからない。
「いや……」と、少し気まずそうに名達さんは結城さんを見た。
「自然に捨てる気になるのを待ちます」と、結城さんが代わりに答えた。
「なんて……いい子なんだ……」
影井さんが壁の方を向いて、膝を抱いた。
紫苑と名達さんがため息をついた。
「影井さんも名達さんも、今カノが元カレから貰ったものを大事に持っていても平気ですか?」
「え?」と、影井さんと名達さんが同時に私を見た。
「元カノとの思い出を大事にしてる人って……、案外彼女が同じだったら許せなかったりするんじゃないかなと思って」
図星だったようだ。
二人とも気まずそうにビールを口に含んだ。
「幕田は……ないのかよ?」
「ない」
紫苑は即答した。
「一つも?」
「ないよ。四年前に朱音と別れた時に、全部処分した」
「ひっで!」と、影井さんが言った。
「そんなにあっさり思い出捨てといて、何で――」
「――おい!」
影井さんの言葉を、名達さんが制止した。
「あっさりじゃねーよ」と言って、紫苑がビールを飲み干した。
「そうでもしなきゃ忘れられないと思ったから……。あの時はヤケになってたし……」
見ると、結城さんが食い入るように紫苑の話を聞いていた。
私は店員を呼ぶボタンを押した。
それぞれ、ビールやカシスオレンジ、ライムサワーを頼む。
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