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「しばらくしてめちゃくちゃ後悔したけど」
「じゃ、ダメじゃん!」
「でも、何もなかったからこそ、本人を欲しい気持ちは消えなかったかな」
「思い出のものがなくても、気持ちは続いてたって……こと?」と、結城さんが聞いた。
「『もの』があってもなくても、『気持ち』は変わらないってことだよ」
「深い……ですね……」
「いや、全然深くないよ? こいつ、尤もらしいこと言ってるけど、朱音さんに再会するまでは――」と言いかけて、名達さんが口をつぐんだ。
「――すいませ――」
「――ううん? 気にしてないから大丈夫」
店員がやって来て、私はみんなの注文を聞いて、伝えた。
「朱音さんて……人間が出来てるっていうか……大人だよなぁ」
「ありがとう」
紫苑が冷ややかな目で私を見た。
「何よ?」
「俺が朱音の知らない女物を持ってたらどうする?」
「燃えるものなら燃やす」
「え……」
「これが大人か?」と言いながら、紫苑が私を指さす。
「私が紫苑の知らない男物を持ってたら?」
「流せるものならトイレに流す」
「げ……」
「私のこと、言えないじゃない」
三人はドン引きで私と紫苑を見ていた。
「お前ら……安定してるようで激しいな」
「でも、気が合ってるってことか」
「ま、俺たちはちょっと特殊だからな……」
紫苑が言った。
私はテーブルの下で、紫苑の指に自分の指を絡ませた。
「特殊?」
「俺たちは……一緒にいないと生きていけないから」
紫苑の指が私の指を撫でる。
「のろけかよ!」
「事実だよ。しかも、実証済み」
「実証?」
「死んだように生きるのは……四年で十分だ」
爪が白くなるほど強く、紫苑が私の手を握った。
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