4.彼の傷

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「しばらくしてめちゃくちゃ後悔したけど」 「じゃ、ダメじゃん!」 「でも、何もなかったからこそ、本人を欲しい気持ちは消えなかったかな」 「思い出のものがなくても、気持ちは続いてたって……こと?」と、結城さんが聞いた。 「『もの』があってもなくても、『気持ち』は変わらないってことだよ」 「深い……ですね……」 「いや、全然深くないよ? こいつ、尤もらしいこと言ってるけど、朱音さんに再会するまでは――」と言いかけて、名達さんが口をつぐんだ。 「――すいませ――」 「――ううん? 気にしてないから大丈夫」  店員がやって来て、私はみんなの注文を聞いて、伝えた。 「朱音さんて……人間が出来てるっていうか……大人だよなぁ」 「ありがとう」  紫苑が冷ややかな目で私を見た。 「何よ?」 「俺が朱音の知らない女物を持ってたらどうする?」 「燃えるものなら燃やす」 「え……」 「これが大人か?」と言いながら、紫苑が私を指さす。 「私が紫苑の知らない男物を持ってたら?」 「流せるものならトイレに流す」 「げ……」 「私のこと、言えないじゃない」  三人はドン引きで私と紫苑を見ていた。 「お前ら……安定してるようで激しいな」 「でも、気が合ってるってことか」 「ま、俺たちはちょっと特殊だからな……」  紫苑が言った。  私はテーブルの下で、紫苑の指に自分の指を絡ませた。 「特殊?」 「俺たちは……一緒にいないと生きていけないから」  紫苑の指が私の指を撫でる。 「のろけかよ!」 「事実だよ。しかも、実証済み」 「実証?」 「死んだように生きるのは……四年で十分だ」  爪が白くなるほど強く、紫苑が私の手を握った。
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