4.彼の傷

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*****  二週間後、紫苑の部屋の荷物はすっかり私の部屋に運び込まれた。とはいえ、家電はリサイクルショップで処分したし、大きな家具もなかったから、ワゴン車をレンタルして、名達さんと影井さんに手伝ってもらって済んだ。  一緒に暮らし始めてから、紫苑は睡眠導入剤を飲む回数を少しずつ減らしていった。明け方、うなされることはあったけれど、目が覚めた紫苑は憶えていなかった。  けれど、うなされていなくても、突然夜中に目を覚まして、狂ったように私を抱くことがあった。  何度も理由を聞こうと思った。でも、聞けなかった。  紫苑が私の過去を深く聞こうとしないのと同じ。  拒絶されるのが……怖かった。  けれど、思いがけない人の来訪で、私は彼の心の闇を知ることになる。 *****  土曜日の午前。  日頃、残業は多くても休日出勤することのなかった紫苑が、システムのトラブルで緊急事態だと出て行った。私は部屋の掃除をして、久々の一人の時間を録画した映画を見ながら過ごしていた。  インターホンが鳴った時、私は冷蔵庫の中を見ながら、夕飯のメニューを考えていた。  モニターを見て、その男性が誰だかすぐにはわからなかったけれど、声を聞いてハッとした。 『突然すみません。今――幕田紫苑の父で――』  男性が言い終える前に、私はロックを解除した。 「――すぐに降りますから、エレベーター前でお待ちください」  私は部屋の鍵を掛けて、エレベーターでエントランスまで降りた。扉が開くと、紫苑によく似た四十代後半くらいの男性が立っていた。 「乗ってください」  私はエレベーターから降りずに、そのまま五階に戻った。 「初めまして。葉山朱音です」 「紫苑の父です。突然、申し訳ありません」  紫苑のお父さんは黒のスーツを着て、磨かれた黒の革靴を履いていた。
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