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身長は、紫苑の方が少し高いと思う。
私は紫苑のお父さんを部屋に招き入れた。
「紫苑……さんは仕事でいませんが、連絡しますか?」
「いえ、あれは私には会いたくないでしょうから……」
私は紫苑のお父さんにコーヒーをブラックで用意した。
「息子がお世話になっています」と言って、紫苑のお父さんは深々と頭を下げ、名刺を差し出した。
「いえ、私こそ息子さんにはお世話になっています」と言って、私は名刺を受け取った。
名刺には、一瞥では頭に入ってこない長い肩書が書かれていた。肩書の最初には『警察庁』とある。
「葉山さん、失礼ですが息子とあなたのことは少し調べさせていただきました。大学時代からの付き合いのようですが、ずっと連絡を取り合っていたのですか?」
失礼ですが、と言いつつも無遠慮な質問に、私は背筋を伸ばして答えた。
「いえ、私が大学を卒業してから連絡は取っていませんでした。春に再会するまでは」
「そうですか。では、あれの母親のことはご存知ですか?」
息子を『あれ』、自分の亡くなった妻を『あれの母親』と呼ぶことに、初対面ながら苛立ちというか、嫌悪感をもつ。
『俺も母さんも、父さんにとっては装飾品でしかない』
昔、紫苑が父親のことをそう言っていた。
「四年……五年ほど前に亡くなったとしか……」
紫苑のお父さんが険しい表情で、私を見ていた。私の言葉の奥を覗こうとしているのがわかる。
「自殺でした」
濁しもせず、はっきりと言った。
その噂は瑠衣から聞いていた。
「第一発見者は紫苑でした」
『第一発見者』という言い方に、胸がざわつく。
「そう……ですか……」
私はうつむいて、ポツリと言った。
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