4.彼の傷

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 身長は、紫苑の方が少し高いと思う。  私は紫苑のお父さんを部屋に招き入れた。 「紫苑……さんは仕事でいませんが、連絡しますか?」 「いえ、あれは私には会いたくないでしょうから……」  私は紫苑のお父さんにコーヒーをブラックで用意した。 「息子がお世話になっています」と言って、紫苑のお父さんは深々と頭を下げ、名刺を差し出した。 「いえ、私こそ息子さんにはお世話になっています」と言って、私は名刺を受け取った。  名刺には、一瞥では頭に入ってこない長い肩書が書かれていた。肩書の最初には『警察庁』とある。 「葉山さん、失礼ですが息子とあなたのことは少し調べさせていただきました。大学時代からの付き合いのようですが、ずっと連絡を取り合っていたのですか?」  失礼ですが、と言いつつも無遠慮な質問に、私は背筋を伸ばして答えた。 「いえ、私が大学を卒業してから連絡は取っていませんでした。春に再会するまでは」 「そうですか。では、あれの母親のことはご存知ですか?」  息子を『あれ』、自分の亡くなった妻を『あれの母親』と呼ぶことに、初対面ながら苛立ちというか、嫌悪感をもつ。 『俺も母さんも、父さんにとっては装飾品でしかない』  昔、紫苑が父親のことをそう言っていた。 「四年……五年ほど前に亡くなったとしか……」  紫苑のお父さんが険しい表情で、私を見ていた。私の言葉の奥を覗こうとしているのがわかる。 「自殺でした」  濁しもせず、はっきりと言った。  その噂は瑠衣から聞いていた。 「第一発見者は紫苑でした」 『第一発見者』という言い方に、胸がざわつく。 「そう……ですか……」  私はうつむいて、ポツリと言った。
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