4.彼の傷

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「すみません。こんな話……」 「いえ……」 「私はあれが心配なんですよ。母親を亡くしてから、あれはすっかり変わってしまった。私から離れ、勝手に姓も変え、就職してからは電話の一つも寄越さない」  正直、紫苑を心配しているようには感じられなかった。 「紫苑さんはもう立派な大人です。以前からの関係を考えても、親と疎遠になることも不思議ではないでしょう。真面目に仕事もしていますし、元気です。ご心配には及びません」  失礼な物言いなのは自覚していた。けれど、目の前の男性に遠慮する気にも敬う気にもなれない。 「薬を……飲んでいますか?」 「え……?」 「春から、通院を怠っているようですが、薬はちゃんと飲んでいますか?」  それを……確かめに来た……の――?  ふと、そう思った。  いや、確信した。  この人は、紫苑が薬を飲んでいるかを確かめに来たんだ――。 「飲んで……います」  私は嘘をついた。 「何の薬かはご存知ですか?」 「眠れないことが……あるから……と」 「そうですか……」  あの薬は……何――?  幼い頃から、私は勘がいい方だ。  目の前の、『息子を心配する父親』を演じている男が何かを隠していることはわかった。
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