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「すみません。こんな話……」
「いえ……」
「私はあれが心配なんですよ。母親を亡くしてから、あれはすっかり変わってしまった。私から離れ、勝手に姓も変え、就職してからは電話の一つも寄越さない」
正直、紫苑を心配しているようには感じられなかった。
「紫苑さんはもう立派な大人です。以前からの関係を考えても、親と疎遠になることも不思議ではないでしょう。真面目に仕事もしていますし、元気です。ご心配には及びません」
失礼な物言いなのは自覚していた。けれど、目の前の男性に遠慮する気にも敬う気にもなれない。
「薬を……飲んでいますか?」
「え……?」
「春から、通院を怠っているようですが、薬はちゃんと飲んでいますか?」
それを……確かめに来た……の――?
ふと、そう思った。
いや、確信した。
この人は、紫苑が薬を飲んでいるかを確かめに来たんだ――。
「飲んで……います」
私は嘘をついた。
「何の薬かはご存知ですか?」
「眠れないことが……あるから……と」
「そうですか……」
あの薬は……何――?
幼い頃から、私は勘がいい方だ。
目の前の、『息子を心配する父親』を演じている男が何かを隠していることはわかった。
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