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「今日、紫苑のお父さんが来たよ」
私がお風呂から上がると、紫苑はベッドで雑誌を読んでいた。
「は……?」
紫苑は怪訝な表情で顔を上げた。
「ここに?」
「うん」
「何しにっ――!」
紫苑がベッドから飛び降り、私の腕を掴んで引き寄せた。
「何を言われた!?」
紫苑が声を荒げて取り乱す姿を、初めて見たかもしれない。
今更だが、身長が百六十二センチの私より十五センチも背が高い彼に見下ろされると、なんだかとても自分が小さく感じる。
まして、いつものように優しい眼差しで見つめられているわけではないから余計にだ。
予想はしていたけれど、紫苑にとって父親は鬼門らしい。
「紫苑のことが心配だって――」
「――そんなこと――」
「――思っていなくても!」
私は興奮した紫苑よりも大きな声で、言った。
「そう言っていたの!」
紫苑は私の言葉の意味を汲み取ったようで、私の腕を掴む手を離した。崩れるように、ベッドに座り込む。
私は紫苑の隣に腰を下ろした。
「何を……聞いた?」
紫苑は頭を垂れ、肩を落として聞いた。
「紫苑のお母さんのこと……少し……」
「そう……か……」
「紫苑、話して」
私は紫苑の肩にもたれた。膝に置かれた彼の手に、自分の手を重ねる。
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