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『紫苑、毎日パソコンと――』
先輩の言葉がよみがえった。
「システム開発部なので、毎日パソコンと睨めっこしてます」
先輩が、一瞬驚いた顔で俺を見た。
先輩も……憶えてた――。
俺は先輩と付き合っていた頃から、暇さえあればネットサーフィンをしていた。パソコンやスマホは必要最低限しか活用しない彼女は、いつも不思議そうに俺を見てた。
『紫苑、毎日パソコンと睨めっこして楽しい?』
そう言って、先輩は時々後ろから顔を覗かせた。
『楽しいよ』
俺がそう答えると、ちょっといじけた顔で『私はつまんない……』と言って、俺の首に腕を回した。
「葉山さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
俺は、俺に声をかけた女性ではなく、先輩に聞いた。
「え……。私は……」
「私たちはみんな服飾部門なんですけど、葉山さんは総務部なんですよー。急に一人足りなくなっちゃって、葉山さんに無理言ってお願いしたんです」
先輩が口を開く前に、隣の女性が言った。
「ちなみに、私たちは皆さんと同じ年なんですけど、葉山さんだけ二才年上なんですぅ」
そういうことか……。
人数が足りなくなって、自分たちの引き立て役に先輩を引き込んだのだろう。
それ自体はよくある話だ。きっと、先輩もわかって参加してる。
けれど、俺は彼女を見下したように笑う女たちにムカついた。
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