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「へぇ……」
俺は爪が白くなるほど強くグラスを握る先輩の手に触れた。
「俺、年上好きなんですけど……、葉山さんは年下ダメですか?」
俺は大学入学直後の学部別コンパで、初めて先輩に告白した時と同じ台詞を言った。
ようやく、彼女が真っ直ぐ俺を見た。
ヤバい。
今すぐキスしたい――。
あの時、先輩は『冷静になって、一週間後も返事が聞きたかったらおいで』と笑った。
『聞きに来なくても苛めないからねっ』とも言った。
「わ……私なんて……」
先輩は目を逸らすと同時に、俺の手を払いのけた。
え…………?
あの時と同じ台詞を期待したわけじゃない。
手を払いのけられたことでもない。
先輩が『私なんて』と言ったことに驚いた。
俺の知っている先輩は、いじけた時しかそんなことを言わなかった。本気で自分を卑下するような考え方はしない。
そもそも、俺の知っている先輩は、合コンで自分だけが年上であることに引け目を感じたり、それを態度に出したりしない。
俺の知っている先輩なら、『二才差なんて、差のうちに入らなくない? 同世代でしょー』とか言って笑うはずだ。
俺の知っている先輩なら、こんな風にうつむいて、肩を震わせたりしない。
俺の……知っている先輩……なら――。
違う……。
今、目の前にいるのは、俺の知っている先輩じゃない――。
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