十 笑顔で

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「紫苑?」 「やべぇ……」と言って、紫苑は手で口を覆った。  紫苑の顔は耳や首まで真っ赤で、四十度の熱があると言われても納得出来るほどだった。  あれ……?  前にも同じような――。 「すっげぇ嬉しい――!」  そう言った紫苑は、笑っていた。  目を細めて、口角を上げて、頬を膨らませて。    笑った――。  四年半ぶりに見る紫苑の笑顔。  そうだ……。  あの時と……同じだ――。  初対面の飲み会で告白された一週間後、紫苑は私に会いに来た。授業が長引いてバイトに遅刻しそうな私を車で送ってくれて、帰りも待っていてくれた。 『付き合って欲しい』  運転中は無言だった紫苑が、私のアパートに着いて言った。紫苑は、今にも泣きそうだった。  正直、その必死な姿に絆された。 『いいよ』  私の返事を聞いた紫苑は、今みたいに顔をくしゃくしゃにして笑った。 『すっげぇ嬉しい――!』  その笑顔を見て、思った。  この人の笑った顔、好きだな……。 「紫苑……」  私は彼の頬に手を伸ばした。指先から紫苑の熱が伝わり、私の身体も火照る。 「私、紫苑の笑った顔が好きよ――」 「え――?」  無自覚だったのか、紫苑は不思議そうな顔で私を見た。 「ねぇ、笑って……?」  私は彼の唇にキスをした。 「笑顔でずっとそばにいて――」
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