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「いい匂い。ハンバーグ?」
紫苑が私を抱えたまま、聞いた。ようやく、私は手を離した。
「おかえりなさい……」
「ただいま」
優しい、触れるだけのキスが与えられて、心底ホッとする。
「具合が悪いなら、ベッドに行く?」
私は首を振って、彼の膝から降りた。
「大丈夫……」
紫苑は何も聞かなかった。代わりに、私の作ったハンバーグを「美味しい」と五回も言ってくれた。
紫苑はいつも、私から話すのを待っている。
強く求めて拒絶されるのが怖いから。
紫苑が変わっていないことが嬉しくて、悲しかった。
『笑って……俺を許して――』
紫苑、あなたは何を許されたいの……?
私の不安を感じ取ってくれたんだと思う。
食事を終えた私たちは、どちらからともなく抱き合い、キスをして、ハンバーグの味がすると笑い合い、ベッドに入った。
ただ夢中で抱き合い、私は彼のぬくもりにひたすら安心した。
「ねぇ、朱音……」
セックスの後、ベッドの中で紫苑が真剣な表情を見せた。
「今も『あの夢』を見ることあるのか?」
やっぱり……気がついたか――。
「今は……ない」と、私は正直に答えた。
「最後に見たのは?」
「前の仕事を辞める少し前……」
紫苑はやっぱりという顔をして、私を抱き締めた。
「もう離れないから……」
成長ないな……。
ほんの少しだけ、紫苑との再会を悔やんだ。
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