4.彼の傷

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「いい匂い。ハンバーグ?」  紫苑が私を抱えたまま、聞いた。ようやく、私は手を離した。 「おかえりなさい……」 「ただいま」  優しい、触れるだけのキスが与えられて、心底ホッとする。 「具合が悪いなら、ベッドに行く?」  私は首を振って、彼の膝から降りた。 「大丈夫……」  紫苑は何も聞かなかった。代わりに、私の作ったハンバーグを「美味しい」と五回も言ってくれた。  紫苑はいつも、私から話すのを待っている。  強く求めて拒絶されるのが怖いから。  紫苑が変わっていないことが嬉しくて、悲しかった。 『笑って……俺を許して――』  紫苑、あなたは何を許されたいの……?  私の不安を感じ取ってくれたんだと思う。  食事を終えた私たちは、どちらからともなく抱き合い、キスをして、ハンバーグの味がすると笑い合い、ベッドに入った。  ただ夢中で抱き合い、私は彼のぬくもりにひたすら安心した。 「ねぇ、朱音……」  セックスの後、ベッドの中で紫苑が真剣な表情を見せた。 「今も『あの夢』を見ることあるのか?」  やっぱり……気がついたか――。 「今は……ない」と、私は正直に答えた。 「最後に見たのは?」 「前の仕事を辞める少し前……」  紫苑はやっぱりという顔をして、私を抱き締めた。 「もう離れないから……」  成長ないな……。  ほんの少しだけ、紫苑との再会を悔やんだ。
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