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「プリエ、生は、例外なく向上を求めるものだ。けど、こちらでは向上し難い。あちらでの肉体を持っての生活は、生き抜きさえすればほぼ間違いなく向上につながる。うまくすれば格段のステップアップに繋がる。その絶好のチャンスを絶つのは重大な罪。それに見合った償いをすることになる。それほどの償い…どんなに辛いことだろう…もちろん、自殺者であっても、反省して償って地道に上がっていく者たちも居る。だけど、辛いことであるには違いない」
「辛いから、楽になりたいと思って死んだら、もっと辛いのがもっと長く続くってこと。向こうで這いつくばってでも生き抜いた方が数段楽ってこと」フェリスは得意気に言った。
「あたし別に辛いとかってわけじゃ…」
「だったらなおさらだよ。プリエ、向こうへ戻りなよ」フェリスは小さく溜息をついた。
「戻るって…どうやって?」
「だよね…」フェリスはプリエの消えかけの銀の紐に目をやった。
「あたしのしっぽが何?」
「そんなに薄くちゃね…戻れないよね…戻ってくれないと僕も困るんだけどな…」フェリスはボソボソとつぶやいた。
「あ、フェリス、受け取って」ユーディが突然プリエをフェリスの方へ差し出した。
「へっ?何?受け取る?」
フェリスが手を出す前にユーディが消えた。
えっ!ユーディ?!落ちる!
フェリスは自由落下を始めたプリエを抱きとめた。が、そのまま真下に数メートル下降した。
「わっ、ちょっと。ささえてよ?!」
フェリスはなんとか持ちこたえてゆるゆると空中を進みだした。
「間に合った」フェリスはほっとした顔をした。
「もう!落ちるかと思った。ホント、頼りないんだから」
フェリスは一瞬、ムッとした表情をのぞかせた。「とりあえず、行くよ」そう言うとそのまま空中を進んだ。「僕の首に手まわして」
「やだ」
「もう…じゃあ、せめてもうちょっと寄ってくれないかな」
「なんでよ。そんなにひっつきたい?」
「別に。その方が楽なだけだよ」フェリスは溜息交じりで言った。
「ユーディはそんな事言わなかった」
「ユーディみたいに楽にこれやってると思わないでよ。僕は、ひ弱なインテリボーイなんだからね」
「プッ 何それ?ぴったりくるけど」
「リリがね、そう言うんだ」
「リリって誰?」
「こっちでの僕の育ての親。リリの所へ向かってるから、すぐに会えるよ」
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