7人が本棚に入れています
本棚に追加
プリエは、アパートメントの階段を上がって2階の一室の前で止まった。ここはプリエの母親が借りている部屋。母一人子一人でずっとここで暮らしている。中で何か言い争っているような声が聞こえる。プリエの母親とその恋人の声だった。
「だから、プリエがもう少し大きくなるまで結婚は待ってって言ってるの」
「もう大きいじゃないか」
「プリエはまだ14歳よ。微妙な年頃だから今は避けた方だ良いと思う」
「プリエ自身は良いって言ってたじゃないか。僕もプリエとは仲良くしてるんだし」
「ええ、でも、あの子、きっと良くわかってないのよ…」
「じゃあ、プリエがいくつになるまで待てば良い?成人するまで?働きにでるまで?この家を出るまで?」
「それは…」
「君はいつもそうやってこの話から逃げる。プリエを言い訳にしてるだけじゃないのか?僕は、君との子が欲しい。君は結婚しないと子供は嫌なんだろ?だから早く結婚したいんだ。君は僕の事、嫌なのか?」
「そんなことはないわ」
プリエが会話の内容に入るのをためらっていると、突然、隣の部屋のおばさんが出てきた。
「あら、プリエちゃん、こんにちは」
「あ…」プリエは、軽く会釈した。
「プリエ?!」母親は、あわてて中から扉を開けた。きれいな流れるような長い金髪が揺れた。
プリエは母親とばっちりと目があった。お互い気まずそうな顔をしている。
「プリエ、あの…お帰り」母親はそういって、プリエの栗色の髪の頭を抱き寄せた。
「…聞いてた?…よね…気にしないでね」繊細な印象の母親はぎこちなくプリエに笑いかけて、すぐに目を逸らした。
プリエはなんだかたまらなくなり母親を突き放し、先ほど上がってきた階段の方へ走っていった。
「プリエ、待ちなさい」母親はプリエを追いかけて肩に手をかけた。プリエは母親の手を払い、その反動で階段から足を踏み外してしまった。
「プリエ!」母親が片手を伸ばした。
プリエも片手を伸ばしたが、母親の手をつかまずに、後ろ向きに階段から落ちた。
「プリエー!」
最初のコメントを投稿しよう!