プロローグ

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逃げろ、逃げろ、逃げろ。 誰も居ない暗い街路樹を走り抜け、ただただ“アレ”から逃げる。 景色は矢のように過ぎ去り、息は上がり、呼吸が乱れ、視界が眩む。 それ程に“アレ”は恐ろしく、俺の何もかもをかき乱して来る存在だった。 助けを呼ぼうと思い、ふと我に帰る。 本当に助けを呼んでも良いのだろうか。 そんなバカな事が脳裏をよぎるが、そもそも助けを呼ぼうにも辺りに人は居ない。 「うわっ!」 何かにつまづき、その場で盛大に転けてしまった。 まずい。 慌てて追いかけて来る“アレ”を見ると、“アレ”は既に近くまで来ていた。 完全に絶体絶命の事態だ。 ジリジリと距離を詰められ、後ずさりするが、ふと気付くと背中がピトリと壁に触れている。 もう、後ろへは下がれない。 「やだ……来るな……来るな!!」 そう願っても“アレ”は止まる事なく、ついに俺の足を飲み込んだ。 ドスンと、重い感触が足に押し寄せて来る。 “アレ”が少し離れ、足を恐る恐る見る。 そこには、あるはずの足が消え、赤黒い液体が溢れ出していた。 「嫌だ、嫌だ!!」 更に叫ぶと“アレ”は腕を飲み込み始める。 又、ドスンと鈍い音が聞こえ、見れば腕が無くなっていた。 「頼む……助けて……くれ」 “アレ”に助けを乞うが、“アレ”はそんな声など聞こえないと言わんばかりに、今度は俺の顔を飲み込んだ。 ドスンと鈍い音が聞こえ、声が出なくなる。 暗闇の中視界がクリアになると、目の前にあるのは、横たわる頭の無い自分の体。 あぁ、俺は死んだんだ。
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