445人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「それで、何をほっとくの?」
「お前、やっぱりしつこいな」
「いいでしょ」
1度気になったが最後、この探究心の塊で出来た妹の瞳はもう梃子でも動かない。
こういう時はもう観念するに限る。
「……部長に部活に来いって言われたんだよ」
実際は言われる前に逃げたが、内容に間違いはない。
「へぇ、部長って女?」
いつもより少しだけ低い声に背筋がぞくりと凍る。
「そ……そうだけど、どうした?」
緊張したまま答えると、瞳もそれに気づいたのか、直ぐにいつもの無邪気な表情へと変わった。
「何でもないよ、気になっただけ。
それより、お兄ちゃん勉強教えてぇ」
笑顔で甘えてくる妹に、先程の表情の面影はない。
気のせいだったのだろうか。
「はいはい、それで何が解らないんだ?」
「数学……解らないところが解りません」
「……お前」
今年受験生だと言うのにこれでいいのかと思いながらもリビングに向かい、俺たちは両親が帰って来るまで勉強した。
俺たちの両親は共働きで、基本10時までは帰って来ない。
だから、それまでは妹と2人で暮らすのが日課なのだ。
今日もそんな日常は何事もなく過ぎ去り、夜中部屋に篭ると大学ノートを取り出す。
今後の記録にもなるだろうし、夢日記を試しに書いてみるか。
ノートの表紙にマジックで夢日記と書こうと思い、その場で手が止まる。
それだと捻りがないな。
折角なら、カッコいいタイトルにしたい。
人が見る夢の記録、「儚い」という漢字には人も夢もある。
なら、タイトルは決まりだ。
儚い記録と書いて《儚録》。
マジックで表紙にタイトルを書くと、それをベッドの上に置く。
「寝るか」
こうして、俺はそのまま深い眠りに落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!