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次第に映写機は、グロテスクな映像を流し始め、見ているだけでも気分が悪くなる。
少しすると、その何かはゆらりと動き、客席であるこちらにゆっくり歩いて来た。
「……あ」
まずい、何故俺は悠長に眺めていたんだ。
夢だと自覚した時にまず警戒する者ではないか。
すでに見慣れた“アレ”の登場に身体が固まる。
又殺されるかも知れないという恐怖からか、足がすくんで動かない。
何故だ。
明晰夢は自分の思いのままに出来るのではなかったのか。
これじゃぁ話が違う。
「……お前は一体何なんだ」
夢は潜在意識の現れともいう。
ならば俺は一体何を恐れているというのだろうか。
“アレ”はそんな俺の事情などお構いなしにじわじわと近づいてくる。
「何故俺を追い回す」
聞いても“アレ”は答えてくれない。
「止まれ!」
勿論そんな声を張り上げても“アレ”は止まってくれない。
足は動かず、頭の中では何度も逃げろと声が聞こえる。
ついに“アレ”が俺に触れようとした時、身体がふらりと後ろに傾いた。
動ける。
理解したと同時にその場で後ろに跳びのき、客席の奥にある扉へと全力で走った。
まずは外に出よう。
そう思い扉に手をかけて勢いよく開ける。
気がついたら俺はステージの上に立っていた。
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