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俺はそんな瞳の両肩をそっと掴む。
「琴音は……俺の彼女の琴音は、今どうしているんだ?」
思い出した。
俺には恋人がいたんだ。
何故忘れていた。
いつも一緒に遊び、瞳の面倒も見てくれていた。
少し感情的になりやすく、瞳とよく喧嘩をしていたが、その関係すら微笑ましく、必ず最後には仲直りしていた。
「……」
瞳は俺の問い掛けに答えようとせず、目をそらす。
「何故答えないんだ、俺たちは昔よく3人で遊んでいたじゃないか」
「お兄ちゃんには、瞳がいるよ?」
俺の質問の答えにならない答えを、瞳は口にする。
「もう忘れようよ、お兄ちゃんは何も気にしなくて良いんだよ。
またいつも通りの日常に戻ろうよ」
瞳の目は微かに涙ぐみ、俺に頼みこんで来た。
確かにまだ記憶は完全に戻ったわけではない。
思い出し間際に感じた恐怖ですら、何故あそこ迄俺は恐れていたのか、思い出せてない。
喉元に何かが引っかかっている様な違和感が、激しくそこにあった。
瞳は間違いなくその何かを知っていて、俺に思い出させたくない様だ。
だが、相手が彼女となれば話は別だ。
「……もういい」
俺は立ち上がると涙を拭き、深く深呼吸をする。
「俺は自分の足で、琴音を探すよ」
そう言って俺は、瞳を置いて自分の部屋から出て行った。
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