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波打ち際の人魚
ある時、春馬と小秋が桂浜を歩いていると、波打ち際に人が倒れているのを発見した。
上半身は裸で、下半身は波に隠れている。
心配になった二人は、護衛が止めるのも無視してそこへ駆けつけた。
近くまで来てみると、その人の足元は紅く、うろこに覆われ、尾びれが付いていて…
「これって…」
そう言いながら、春馬はあたりを見回した。
どこかでTV局のカメラが回ってるんじゃないかと思ったからだ。
「え、まさかだよね、だってこれ…」
小秋は恐る恐るその足元に触れてみた。
「ばか、危ないって」
春馬は慌てて小秋の手を引っ張った。
「これ、本物のうろこ、みたい」
小秋の手を引き、少し距離を置いてから春馬もソレをまじまじと見てみた。
人型である上半身と、魚類と思われるその下半身の付け根には、人為的なものは感じられない。
「いや、でも、まさか」
人魚なんて、お話の中だけに存在するはずだと思った。
しかも日本の昔話ではない。
それに、目の前にいるこの「ヒト」は…
「う、うう、ん」
ソレは声を発すると、少しだけ頭を持ち上げた。
「王子、姫、危険です、下がって下さい」
護衛の任に当たっていた男達が、二人の前に回り込む。
「どきなさい」
小秋は護衛達に命令する。
「しかし」
反論しようとする護衛を、小秋は睨みつけた。
「このヒトは、大丈夫だと思う。きっと害はないわ」
小秋は護衛に向けた鋭い視線を緩めながら、ソレの傍らまで進むと、その場でしゃがみ込んで声を掛けた。
「あなた、何者?日本語、話せる?」
「言葉は、解ります。私は、あなた方が認識している所の、人魚」
「や、やっぱり?!」
小秋はその場で立ち上がって、無言でこちらを見ている護衛達と春馬に向かって両腕を広げた。
「あなた達は、この顔を見ても、この者が害があると思って?」
小秋が言うように、確かにその顔は穏やかで美しかった。とても人に害を与えるようには見えない。
小秋はもう一度人魚の方に向き直ってしゃがみ込むと、その長い髪をかき上げながら問いかけた。
「あなた、一体どうしてこんな所に?」
小秋が問うと、人魚は自身の尾びれを指差した。
「あ、網に掛かってしまって、尾びれが切れてしまって、それで、泳ぎがままらなくなって…」
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