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海底で佇むアリス
「アリス、どうしたの」
海底の大きな岩場に腰掛け、頬杖を付いているアリスに、マリアが話掛けた。
「う、うん。今日さ、人間に見付かっちゃった」
「ええーっ!?それで、逃げてきたの?」
「ううん、その時私は怪我をしていて動けなくて、人間に見付かった瞬間は死を覚悟したけど、でもその人達は私の怪我が治るまで傍に居てくれて」
人魚の世界では、人間に見付かる事はご法度だった。見付かれば捕獲され、生きたまま解剖され、不老不死の食材にされると言われていたからだ。
「よくバラバラにされなかったね」
そう言いながら心配げに見つめるマリアだったが、アリスの表情が怯えたものではなく、どこか呆けている事に気付いた。
「あ、あんた、まさか」
「バレた?」
そう、アリスは人間に恋してしまったのだった。
優しくされたからとかでなく、それは一目惚れだった。
それもまた、人魚が人間と対面してはならない理由の一つ。
人魚は何故か直ぐに人間との恋に落ちてしまう傾向にあったのだった。
だから、本来ならすぐその場を離れるべきだったのに、怪我のせいだけではなくそれが出来なかった。
「ダメだよ、人間なんかに恋しちゃ」
「で、でも、好きになったんだから、仕方ないし」
「私は知らないからね。聞かなかったことにするからね」
それだけ言うと、マリアはそこから離れていった。
この頃には、人魚を人間にしてくれる魔女の存在は、皆が周知の事実だった。
昔の魔女だったら、代償として声を奪ったりしたものだったが、今の魔女には欲しいものなどもうなかった。
魔女はもう声も美しく、若く、美貌も手に入れていた。それらは過去に人間になりたがった人魚から奪ったもの。
それでもアリスには自信があった。
魔女を口説き落として、人間にしてもらえると。
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