こたつの精霊

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 祖母は長男夫婦と同居しており、盆・正月になるとこの家に親族が一同に会する。  昨年の秋に二つ年上の従兄に子供が生まれ、祖母はひ孫の顔を初めて見たのだが、「冥土の土産にする」と何度も見ては顔を目に焼き付けていた。  賑やかな声が遠くの部屋から、居間に聞こえてくる。昔ながらの農家の平屋。木の古びた匂いが家中に漂い、【ばぁちゃんの匂い】にどこか心が落ち着く。  テーブルの上に置かれた木で編まれたカゴの中から山になっているミカンを一つ取り、祖母は皮を剥き始めた。こたつにミカンは、日本の冬には欠かせない。柑橘の爽やかな香りが居間に広がっていく。 「貴史、向こうの生活には慣れたかい?」 「うん。大分ね」 「そうか……」 「ばぁちゃんは、まだゲートボールやってんの?」 「いや、もう引退した。最近、どうにも腰が痛くてなぁ……」 「そっか……」  棚に飾られた 祖母がゲートボールで勝ち取ったトロフィーの数々が少しだけ寂しく見えた。
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