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[根性論]
―――――
(前日・目倶老記念病院)
優子「…そう言う訳で、一足早く『休み』に入らせてもらいます」
影子「おめでとう(笑)。
これで、ようやくあなたも『男とおさらば出来る』わね」
優子は、近く「性別適合手術」を受ける事になっていた。
優子「ありがとうございます…」
そう言った優子の声は、どこか弱々しかった。
影子「…元気ないわね。
何か、『不安な事』でもあるの?」
優子「その…
やっぱり、『手術の後の痛みは凄い』んですか?」
性別適合手術は、「外科手術」を受ければ「それで終わり」と言う訳では無い。
手術を受けた後、様々な「苦行」に耐えなければならないのである。
参考:平沢ゆうな作・僕が私になるために・モーニングKC(KCは講談社コミックスの略)
影子「そうね…
『それまでの人生で経験した事のない痛み』が次々と襲って来るわよ。
『覚悟』しておいた方がいいわ」
やっぱり、そうなんだ…。
私に「耐えられる」のかしら…。
そんな優子の「不安」を見透かしたように、影子は言葉を続けた。
影子「…まあでも、多分『出産に比べたらまし』よ。
私は、そう思って『乗り切った』わ」
「痛みを感じる期間」は、出産より長いけどね…。
優子「…『出産』ですか?」
確かに、出産は「地獄の苦しみ」だって聞くけど…。
影子「女の『男より優れてる』点の一つは、『出産の苦痛に耐えられる』事よ」
その点において、男は女に「絶対に」敵わない。
影子「だからあなたも、『出産未満の痛み』なんか『目じゃない』でしょ。
いくら体は男でも、『魂は女』なんだから」
優子「…そうですね」
何だか「根性論」みたいだけど、奈雅尾先輩にそう言われたら、「耐えられる」気がして来たわ…!
影子「…それから、入院中は『暗い気分』に陥りがちだけど、その時にはなるべく『楽しかった時やうれしかった時』の事を思い出す事ね」
優子「はい」
海外での性別適合手術で最も辛いのは、「孤独との戦い」だと言われる。
だが、おそらく優子は大丈夫だろう。
優子には影子や熊山のような「同じ境遇の仲間」が身近に居るし、能武晴も居る。
彼等の存在が、優子の「心の支え」になるに違い無い。
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