出逢いは雨空の下

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出逢いは雨空の下

 おばあちゃんの髪は白かった。もとから白かった。――でも、初めてだった。腕や顔まで青白いのは。  その日のおばあちゃんは、布団の中に入って仰向けに寝ていた。寝相の悪いおばあちゃんだもの。仰向けでじっとなんてしていられるはずはない。  でも動かない。寝返りを打ってくれない。  認めたくない。認めたくないけど、どこか心の中で分かってしまう自分が憎い。 「ねぇ……おばあちゃん、教えてよ。ねぇ。人は死んだらどこに行くの? 教えて……くれた…ら…さ。逢いに行くから……」  そう言っても、泣きじゃくっておばあちゃんの肩を揺さぶっても、おばあちゃんは答えてくれない。  当りまえのことだけど。それでも答えてほしかった。  その唇がかすかに動いて、皺だらけの顔がにっこりと優しく笑って、それでそれで……、あの優しい声が聞こえるのを待っていた。待っていたかった。  でも私の願いは叶わなかった。 「……どこにも行かないよ」  隣から声がした。でも隣には誰もいない。周りを見渡しても、動かなくなったおばあちゃんを囲んでお父さんやお母さん、そして親戚のみんなが、顔を畳の床に向けて暗い顔をしているだけ。  そしてもうひとつ。私にはわからないことがあった。  その声が、まぎれもなくおばあちゃんの声だったこと。  でもおばあちゃんは、もう動かない。――でもおばあちゃんの声は聞こえた。  もちろん、唇が動くところは見ていない。――でも聞こえたんだ。 「でもそれを知ることができないから、みんな……。どこかに行ったんじゃないかと思うんじゃよ。何かが聞こえても、私の唇が動いていないんじゃあ、そう思うじゃろ」  頭の中にある時の知らない声が響くことはよくあること。それが、死んでいったものの言葉だとは、どこかで聞いたことがある。いいや、それも死んでいった誰かさんが言った言葉なのかもしれないけど。  とにかく、そんなことがあったのは小学四年生になって三ケ月がたったときのこと。  そして、それから七年の月日が経った今。  この物語は、始まることになる。  始まるというよりも終わってしまったに近いけど、この物語は終わってから始まるようなものだから、始まるということにする。
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