一章

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 森矢プロダクションの事務所は道玄坂の貸しビルに入っている。真鳥が事務所に入ると、社長の森矢自らが真鳥を出迎えた。 「山名さんはどうしたんですか?」 「山名は美琴ちゃんの収録に付き添いで現場に出ちゃってね」  森矢プロダクションは所属するタレントが二十名程度に対し、社員は社長を含め四人。うちマネージャは二人で、その二人が持ち回りで所属タレント全員の面倒を見ている。真鳥の場合は今は舞台出演が主な仕事だが、余程のことがない限り稽古場や舞台にマネージャは同行しない。小さな事務所で一般的な知名度は低いが、舞台では実力派で人気の俳優が何人か所属していることに加え、社長の森矢が演劇界に強いコネを持っていることから、業界内では舞台に強い事務所として知られている。ちなみに『美琴ちゃん』とは真鳥の後に入ってきた地下アイドル出身の鈴音美琴のことで、森矢プロとしては珍しくテレビ向けに売り込んでいる。     
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