プロローグ

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「舞台演劇というのは、遠くの客席の観客にも楽しんでもらわなくてはなりません。だから遠目でも一目見て自分が何者であるかが明確に伝わるように役を演じるんです。表情、立ち居振る舞い、発声の仕方も独特ですね、例え独り言でも観客に聞こえるように話す……舞台演劇特有のお約束、ルールみたいなものがあるんですけど、そういう点からしても、観客の存在自体が、舞台の世界には織り込み済みだと思うんです。  それで俺は観客の目線を意識するとき、役が自分の外に出ているようなイメージで演じます。ロボットアニメの主人公がロボットの中に入ってロボットを操作するみたいに、自分が役の中に入って、外側の役を動かしている感じです。そうした方が、舞台上の世界では違和感が無い。中にいる本来の自分は観客からも、舞台上の他の登場人物からも見えなくて良いんです。見えてしまうと、舞台上の世界では異物になってしまいますから。  それに対して、映画やドラマの世界は、きわめて現実に近いルールで成り立っています。観客はいませんし、存在するはずのカメラも意識しません。フィクションの世界でありながら、演技には現実感が求められます。だから役を自分の内側に入れる。役を内側入れて、役に自分を演じさせるんです。俺は外側の肉体だけを提供して、役がその肉体を使って自分自身を表現する。そうするとおのずと僅かな表情の変化や言動にリアリティが出て、自分が何者であるかを知らしめることが出来る」 「でもそれだと、映像作品の場合、君はまた君自身の心の居場所を失ってしまうことになりませんか?」  熱心に語っていた真鳥は、各務の問いに戸惑うように言葉を失う。     
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