六章

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「……麦子さんとのことは、週刊誌の報道の通りで……」 「平気です、全然気にしてません」  落ち着いた真鳥の返答に対し、しかし友永はさっと顔色を変え、苛立ちの混じった声をあげた。 「気にするだろ、普通!  親友と母親が寝てたら、嫌だろ! 軽蔑するだろ!」 「でも、麦子さんはそういう人だってことを、俺は良く解ってますから」  彼女は多分そうだし、真鳥も、それまでの堕落した経験から、性交渉に対して倫理上の重要な意味を見出していない。麦子にとってそれは単に快楽を得る手段であり交渉道具であり、真鳥にとってそれは単に代償であり罰である。  友永が感情を、ことに怒りや苛立ちを隠せない時、それは多分疲れているときなのだと真鳥は推し量る。過去に友永が真鳥に対し声を荒げたのは二度、そのいずれも帰ってこない真鳥を待って疲労がピークに達していた時だった。だから今彼は、とても疲れている。  真鳥の冷静な言葉で友永は苛立ちの解放先を見失い、唇を震わせて俯いた。 「……お前のボーダーが良くなって、週一の面会が無くなって、それでまたお前と普通の友人に戻るのが俺は嫌で」  真鳥を見ない友永は自分自身に語るように言葉の先を辿る。 「お前とどこかで特別に繋がっていたかった」     
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