プロローグ

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 真鳥はもう殆ど完全に回復したと言って良い状態だが、まだ自分の心理面で整理のつかない部分が残っている。再び自分より完璧なフィクションの人格を手に入れた時、過去と同じ問題を起こさないという確信が、各務には持てなかった。  各務はそんな憂いをおくびにも出さず、柔らかに微笑んで言った。 「……今の和巳君にとっては、きっと役を外に出す方が合っていますね」 「……合っているというか、楽なんです。  舞台は一公演が数時間なので、役に拘束される時間が短く、一公演が終わるごとに、一旦自分に戻ることができるんです。  そして物語の最初から終わりまでを何度も繰り返すことで、自分が演じている役に対し客観的になれる気がします。それが何というか、少し楽なんです。  勿論、演技自体が楽ということではなく、なんというか、ほっとする、というか……」  言葉の割に、真鳥は少し気持ちを落としたように俯いてしまう。 「……楽なのは不満?」  各務が穏やかに問うと、真鳥は少しだけ顔を上げた。 「生きている理由が、解らなくなるんです」
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